

2025年 経営・管理ビザ制度の分岐点
制度改正の先にある、日本の移民政策と起業環境の行方
急速に変化するアジアの移民競争の中で、私たちが注視すべきは「制度の本質」と「国の方向性」です。
概 略
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近年、日本における「経営・管理ビザ」の申請制度が注目を集めています。
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一部メディアでは、韓国における「投資ビザ」の資本金要件が3,000万ウォンに引き上げられたことを受け、日本でも同様に資本金要件を引き上げるべきだとの論調が見られます。しかしながら、こうした意見は制度の本質や経済構造への理解を欠いた表層的な比較にすぎません。
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我々は、「経営」と「投資」を混同し、隣国の基準をそのまま模倣することは、日本の起業環境、外国資本の誘致、そしてビザ制度の安定性に対し、むしろ逆効果をもたらすと考えます。
01 「経営・管理ビザ」≠「投資ビザ」
経営・管理ビザは、外国人が日本で実際に「会社を経営し、常駐して管理する」ことを目的とした在留資格であり、単に資金を出資すれば取得できる「投資移民制度」とは本質的に異なります。
出入国在留管理庁は「資本金500万円以上」を明確に基準として定めており、それ以上の多寡は求めていません。
一方、韓国の「投資ビザ(D-8、F-5など)」は資本導入を目的としており、経営参加が不要な制度です。
このため、資本金額を引き上げても申請者の質が向上する保証はなく、かえって制度の目的を曖昧にし、実質的な起業志望者の参入障壁となる懸念があります。
02 資本金の増額は、審査の質を高めず、制度リスクを生む
仮に制度上、資本金要件を引き上げた場合、以下のような問題が生じ得ます:
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現行法に資本金多寡を審査基準とする根拠はなく、恣意的な行政運用の危険性が生じる
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不透明な審査基準によって申請者が混乱し、行政訴訟リスクが高まる
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他のビザ種別(高度人材ビザ、特定技能等)との制度的整合性が損なわれる
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出資金の出所・真偽の確認が困難となり、マネーロンダリング・虚偽出資の温床となる可能性も
03 日本の起業環境は、高額投資を前提としない
中小企業庁・JETROなどのデータによれば:
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日本の新設法人の平均資本金は500万円未満
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外国人起業家の多くは、コンサルティング、貿易、EC、ITなどの軽資産型ビジネスを選択
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日本は労働力不足で人件費が高く、外国人創業者の実務コストは高い傾向
こうした中、資本金要件を引き上げれば、真に「経営したい」人材を排除する結果となり、むしろ形式的な「投資者」ばかりが残ることになります。
04 日本国内制度における法的限界と行政判断
入管法第7条及び出入国在留管理庁の審査運用要領において:
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資本金は「最低基準」であり、それ以上をもって審査の正当性を判断する性質のものではない
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ビザ審査の本質は「事業の実行性」「継続的な運営能力」「日本社会への貢献性」である
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行政判断は、恣意的に資本金の金額を「質の基準」として扱うことを許されていない
すなわち、制度は「法令・合理性・比例性」の原則のもとに運用されるべきであり、他国の動向や世論だけで要件を変更することは法的安定性を損ないます。
05 メディア報道に見られる“過剰反応”と論理の飛躍
2025年6月、メディアは「韓国制度に倣って日本も資本金を引き上げるべき」との論調を掲載していますが、以下のような問題点があります:
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制度の背景や対象者が異なるにもかかわらず、単純な数値比較を行っている
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「資本金=ビザの質」という誤った前提に基づき、世論を誘導している
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政策的意図や政治的主張の補強材料として利用されている可能性
06 結論:「数値の引き上げ」ではなく、「制度の精緻化」こそが本質
制度の信頼性を担保するのは「透明性」「予見可能性」「法的根拠」であり、資本金の多寡ではありません。真の制度改善に向けて必要なのは:
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実際の経営活動の有無を確認する審査体制の強化
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統一された外国人創業支援窓口の設置
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金額ではなく事業計画や事業内容を重視した審査基準の導入